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手延べ素麺が手作業であることの意味
手作業で延ばしている作業風景
さて、手延べ素麺は手で延ばしているから「手延べ」だと思っていませんか?
結論から言えば、殆どが機械で延ばし、生産されています。「エー、そんな。」と思われるかもしれませんが、もう随分前からあっという間に全国的に広まっています。それは昭和50年代に九州で機械化の波が起こりました。
それについては後で書くとして、手作業で延ばすのと機械で延ばすのとなにが違うんだろうかという点について考えてみよう。
ハタ5台を延ばす作業時間 1袋あたりの塩の量 加水量 熟成時間 手作業 夫婦2人で3時間半〜4時間 1.5kg/1月 52%程度 充分に取る必要がある 機械 約1時間 1.2kg/1月 45%以上 すばやい作業性が必要
まず手作業で行うには作業時間が掛かるので、しっかり塩を加え「デ」が来るのをゆっくりとし、力も弱いので加水もたっぷりとして無理なく作業ができるようにする必要がある。従って作業の各工程で充分な熟成を必要とする。
機械作業では伸ばす時間が短くて作業が早いので「デ」がすばやく来る必要がある。従ってこれに合わせ塩の量、加水量を少なくする必要が生じる訳です。
たったこれだけのことなんですが、実はこれが食味食感に与える影響というのが大変なことなんです。
少し脱線するようですが塩が多いというのは身体に悪いじゃないかと心配されてはいませんか?
手延べ素麺に含まれている塩分は約6%程度ですが(2束、100gを食べるとして6gの塩が含まれることになります。)、これを2分間湯がくと90〜95%の塩分が溶け出る(茹で汁を舐めた人はとても塩辛いのを経験していると思います。)ので、茹で麺に残っている塩分は0,5g程度なのです。従って塩分を心配することはないのです。
それよりも塩分が溶け出る隙間が生じることで茹で時間が速くなったり、食感が好ましくなったりして思わぬ効果があるようです。
手作業故に時間が掛かるので塩を多くするというのは、必然が思わぬ良い効果を生んだと言えよう。
加水量が多いというのは手作業故に力がないので絶対に必要であり「グルテンの網目状構造」が緻密に、なおかつ各工程で破壊されずに形成され、食味食感に与える影響は多大なものがある。
貯蔵における影響
手作業で延ばした素麺は加水量、塩の量とも多いので、凝集性も低く、作ってすぐも貯蔵しておいてもその食感はモチモチ感を失わず美味しいのです。
機械製造の素麺は加水量、塩の量とも少ないので凝集性が高く、作ってすぐはそれほどでもないのだが、貯蔵しておくと硬くボソッとした食感になってしまう。
簡単にその差異を書きましたが「大工場製手延べ素麺」については私は全然勉強しておりませんので書くことはできません。詳しくは「小豆島手延べ素麺 製法の考察」、「小豆島手延べ素麺のお話」を見てください。
だから手作業で作った素麺はいつまでもうまいんです。
機械化と手延べの定義
九州での生産単価は「兵庫」や「小豆島」に比べ随分低く、せめて収入を同じにするために省力化と増産を図ったのです。ところがこの機械化は九州に留まらず全国に広まっていったのです。なぜなら生産単価が同じで生産量が上がりなおかつ手間暇かからないというのですからこんなにうまい話はない訳です。
ちょうどこれが「バブル」とぶつかり、どんどんどんどん拍車がかかってしまいました。
終いには「大工場製手延べ素麺」(1日の生産量=200〜300箱/18kg)も出現しました。
そしてバブル後、需要と供給のバランスが完全に崩れてしまったのです。
ここでは「機械麺」と「手延べ麺」との違いについては書きませんが、なにが手延べなのかといえば、手作業であろうと機械化されていようと大工場製であろうとその生産工程が同じということですね。
定 義 手延べ干し麺
(手延べ素麺類)干し麺のうち、食用植物油、澱粉又は小麦粉を塗布してよりを掛けながら順次引き延ばして丸棒状又は帯状の麺に製麺し、乾燥したものであって、製麺の工程に置いて熟成が行われたものであり、且つ、小引き工程《かけば工程(よりを掛け交差させつつ麺線を平行稈に掛けることをいう。)を経た麺線を引き延ばすことをいう。》
又は門干し工程(乾燥用ハタを使用して麺線を引き延ばして麺とし、乾燥することを言う。)を手作業により行ったものをいう。
《手延べ干し麺にあっては、「手延べ干し麺」と記載すること。但し、長径が1,7mm以上の丸棒状に成形したものにあっては「手延べうどん」と、長径が1,7mm未満の丸棒状に成形したものにあっては「手延べ冷や麦」又は「手延べ素麺」と記載すること。》
「手作業」についての定義の矛盾についてはページを変えて書いていますのでそちらの方で見てください。
オデ工程 イタギ工程 ほそめ工程 掛け機工程 小引き工程 門干し工程
塩見製麺所 熟成と厄 加水量と塩 褐変現象と防止策