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塩見製麺所 熟成と厄 加水量と塩 褐変現象と防止策
O 熟成(製造工程と貯蔵中における熟成)について
手延べ素麺には「製麺工程」において或いは「厄」現象において熟成というものが大きく影響を及ぼしている。熟成というのは製麺工程においてはある時間寝かす、放置することによりグルテン構造を損なうことなく、また無理なく均一に展開させるために必要な、ひいては品質に多大な影響を及ぼす工程である。
「厄」においても(新原等)の研究論文によれば品質に多大な影響を及ぼすことが詳細にわかってきた。
ここでは「手延べ素麺の熟成」について、その意義、効果、推察される事象を素麺を造る工程の中で、或いは厄現象の中での2点について書きたいと思います。
製麺工程にあっては「手延べ素麺の製造方法」で各工程で時間と共に書いているので、それぞれ確認をしてください。
- ある時間生地、麺帯、麺線を寝かす、放置することを「熟成」という
- それは水和による生地の均一化とグルテンの形成と展開をすることであり、
- 各工程での手延べ素麺の加工をしやすくするために取ることで、その品質も向上させている。
手延べ素麺における多加水(50%以上)の麺生地への水和とグルテン形成のための熟成
オデ機による混練は機械故に強く生地の水和、グルテンの形成と展開を強力に行うが、反面グルテンを壊すのである。
まず水和についてはオデ機で混練しただけでは小麦粉粒子の中までの水和は難しく、熟成や後の圧延などの工程に寄るところが大きい。(小麦粉粒子の中にはなかなか水の分子は入れない)
この点で手延べ素麺は多加水であるが故に機械麺と比べ遙かに優れているのです。
機械による摩擦が少ないので、生地の水和、グルテンの形成は強力に行うが、グルテンを壊すことも少ないのである。
手延べ素麺製造の各工程で熟成を行うことは、構造緩和による製麺適性を向上させ、更に品質の向上にもつながる大事なものである。
構造緩和による製麺適正のための熟成
各工程後、或いは各工程の途中の段階後でも(機械を通した後)生地、麺帯、麺線の緊張があるので構造緩和が充分に起きるための「熟成」が必要で、それは過度に取る必要はない。
つまり各工程間で数時間に及ぶ熟成は必要なく次の作業がスムーズに行われればよいので十数分あれば済む工程もあるわけだ。
(今回の国のJAS規格、表示法改正案による6時間3時間12時間以上という熟成時間は全く根拠のないだけでなく各産地の手延べ素麺の特色をも奪ってしまう悪法である。)
構造緩和を早くする方法
- 多加水
- 高温(生地の温度も含めて)
- 機械による緊張を強くしない(細かいプロセスが必要)
以上書いたように手延べ素麺は「多加水」であり、「熟成」を充分取るのでグルテンの網目状構造も澱粉粒子をしっかりと包み且つ均一に展開しているので、茹でどけ、茹でのびが少なく、シコシコと粘弾性に富むおいしい素麺なのです。
「厄」をもたらす熟成
これは(新原等による研究)に詳しい
多くの論文を発表しているので気になる人はそちらで勉強してほしい。
実は私も理解が足らないので、概要を書き記し、紹介することにします。
「昔から梅雨を越して厄した素麺はコシがあってうまいと言われます。」
この言葉は昔すべてを手作業で行っていた(ほんの数十年前まで)頃の麺の付着防止のために油(綿実油)をはじめから相当に塗布していたので、油の匂いが強くくさかったのである。
素麺は冬の農閑期に作り、食べるのは翌年の暑くなってからなので、ちょうど「厄」して油の臭みも取れおいしく食べられたのである。
現在では油の塗布も少なく、油臭さも少ないので昔とは少し違っているといえます。
うろ覚えなのであるが(後できちんと調べます 汗)脂質は加水分解され遊離脂肪酸に変わる。これがグルテンタンパクに影響を与え、澱粉の膨潤を抑制することになり上記のような物性の変化をもたらした。
手延べ素麺の価値評価の大きな一因の「厄」がこの塗布する(ごま)油にある。
遊離脂肪酸の増加は(新原立子等)(島田淳子等)の研究報告(日本農芸化学会誌等)で報告され、「グルテニン及び水溶性区分に見られた。」とあり、手延べ素麺の「厄」による物性の変化は「高温多湿」の基での脂質の変化を上げている。
また山中信介等(奈良県工業試験場)は「夏麺と冬麺の品質比較について」の研究報告で夏麺と冬麺の品質差や貯蔵中における物性の変化について検討した。乾麺の性状、茹で麺の物性及び官能評価について検討したところ、特に夏麺と冬麺の間に有意な差は認められず、個々の製品における品質の特性が重要であるものと思われた。貯蔵中における変化についても、夏麺と冬麺の間で差は認められなかった。
とあり、夏麺3,冬麺3種類だけにすぎないため今後のさらなる検討が必要と結んでいる。
私が官能検査結果を見て気づいたのは、「厄前」には冬麺の方を好む人が多く「1回厄後」には反対に夏麺を好む人が多くなり、「2回厄後には」有意差は認められないということである。
それと夏麺、冬麺と区別したり、厄前、厄後と区別するよりも手延べ素麺の作り方による品質の向上に目を向けるべきであると思います。
新原等の報告を読んでいて「厄前」「1回厄後」「2回厄後」とあって、1回厄では遊離脂肪酸の増加が報告され「厄」への関与と酸価はそれほど変化しないことが報告されているが、2回厄では酸価の上昇があって、1回厄と2回厄は明らかに違うものであることが報告されている。
実はこういった報告には食生活に及ぶ報告はないのだが、2回厄後には酸価の上昇があるということだが「酸敗油」等の油脂の酸化による身体への影響はないのだろうか。
ご存じの方はお知らせいただきたい。
まとめ
新原先生の研究報告からのまとめです。
少なくとも私は詳細な検討が目的ではなく、手延べ素麺を作る上で、或いは貯蔵に関して、或いは販売する上で、「厄」に関する研究が、何らかの形でプラスになればとの想いで書いています。
- 少なくとも最初の1年は、脂質の酸化はほとんど進まずきわめて強い抗酸化作用があり、
- この酸化防止に水分が重要な役割を果たしている。
- 加水分解により遊離脂肪酸が増加し、吸水率の低下、硬さの増加、凝集性の減少が起こるなどの現象(グルテンタンパクに影響を与え、澱粉の膨潤を抑制する)がすなわち「シコシコとしたコシのある素麺」になる。
- 2回目の厄を越すと脂質の酸化が進み、明らかに1回目の厄とは違う変化(化学的な)が起こる。
製造するときの注意点としては参考: 75%エタノールで1ヶ月の密閉貯蔵で厄現象に似た現象が起こることを確認している。
- ごま油を付けすぎない。
- 過乾燥にはしない。(高温少湿での貯蔵は脂質の酸化を招き好ましくない。)
- 貯蔵での湿度管理は大事である。
(注) 特許があるので商用にはしないように
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