夏のカナダを10年ぶりに訪れてみた。順応力の限界を超えたような今年の日本の夏を脱出してバンクーバーの空港に降り立ってみるとそこには別世界があった。気温は22度くらいで湿気が無くそよ風がひんやりと心地良い。機内でバンクーバー在住の日本人の人達の会話が聞こえてきた。毎年夏には日本に帰省することにしているけどその度に暑さで体調が狂ってしまう。今年の日本の暑さは事の他厳しかったという内容の会話が聞こえてきた。
長旅の疲れも取れない到着の日にこちらに住んでいる長男とヨットに乗ってみた。ジェリコビーチという所にあるUBC(ブリティッシュコロンビア州立大学)のヨットクラブで2人乗りのヨット(ディンギー)を借りて波静かなイングリッシュベイを自在に走り回った。日本の夏のような“べたなぎ”に悩まされる事もなく程好い風に恵まれた。右手にスタンリーパークとライオンズゲートブリッジを見て対岸はウエストバンクーバー、その山手の方にはグラウスマウンテンのスキーのコースも見える。沖合いには世界各国から来た巨大な貨物船やタンカーが停泊していて、我々はその間を縫って対岸であるウエストバンクーバーの家々やコンドミニアムが近くに見える距離まで近付いてみた。この湾内ではヨット、ウインドサーフィン、ボートが思い思いに北国の夏の海を楽しんでいる。
夕方になれば仕事を終えて海に来る人たちが増えて一層賑わう。何しろここは緯度が高いために夏は夜は9時頃まで明るいから5時に仕事を終えてからでも充分に遊べるのである。UBCのヨットクラブには様々な種類のヨットやウインドサーフィンが用意されており、会員になれば自分の技術に応じて好みのものを借りる事ができる。また年会費も驚くほど安い。セーリングを終えヨットを片付けてクラブハウスに戻るとレストランでは海を見ながらゆっくりと生ビールを傾けている人たちがいる。実に羨ましいような環境でヨットライフを楽しむ事が出来るのである。日本では遊ぶことにも気を使い、世間体や年齢を気にしてみたりとかく余計なものが付いて廻る。そういうものから自由になってもっとシンプルに子供心に戻って楽しめるようでなければつまらない。まだまだ日本人は遊ぶのが下手なのである。
バンクーバーはダウンタウンからビーチまでが近いのでアクセスも楽であり海に遊びに行くのに苦労することはない。冬は近場の山々に雪が降りスキーやスノーボードを楽しめる。また今年の冬季オリンピックのスキー競技の主な舞台になったウイスラーリゾートまでは車で2時間である。このようにバンクーバーは海も山も楽しめるという世界でも稀な自然環境に恵まれたところであり、アウトドアースポーツ好きにとっては天国のようなところである。
この街に来る度に感じるものは何と言っても自由だろう。街を歩いてもとても気楽で心を抑制するものが少ないことである。カナダは移民によって出来た新しい国でありしがらみが少ない。日本という国は総体的に勤勉で几帳面だがよく観察すると細かな規制が網の目のように張り巡らされているのである。私の業界も窒息しそうなほどの規制でがんじがらめにされている。しかも新たな制度が出来る度に規制が増えていく。いつもの事だが日本に帰るとほっとすると同時に国民一人一人が小さな鳥籠のなかに閉じ込められているように感じられる事があるが、それは物質的な意味においてではなく目に見えないところでそう感じるものが存在するのである。
各民族の特徴や気候風土がその国の個性を作っていくのだろうし、それぞれに長所と短所があるから一概にどちらが良いと言えるものではないだろう。それぞれの個性を保ちお互いに認め合う事が地球人類の成長と発展には欠かせない要素であろう。そういう意味からもこの街はあらゆる民族がそれぞれの個性を失うことなくお互いを認め合って一つの調和の下で暮らしていくという未来の人類のありかたを示しているようなところがあると思う。一方において天然資源に恵まれた広大な土地や厳し過ぎない気候がそういう条件を提供しているのかもしれない。極寒や酷暑、食料や水など資源に恵まれない場所においては人間はどうしても心の余裕が生まれにくいし争い事も起き易くなる。人はそういう環境下では悠然と暮らすことは難しくなるだろう。
今回は気候の変化と長旅のせいもあって向こうで風邪を引いてしまったが、それもまたゆったりと時間を過ごす事になり良い休暇を過ごす事ができて何よりだった。
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