遍路の話

7    バイク遍路 その1

クォーンという精一杯の排気音を響かせてホーネット250は高速道路を疾走中。体で感じる振動と排気音は体感で150kmくらいか?がしかし車が事も無げにヒューン、ヒューンと追い越し車線を追い越していく。スピードメーターを見ると時速100kmちょっとで音のわりに前に進んでいない。タコメーターは1万回転近く、ハンドルのグリップからの振動がすごい、ずっと走り続けたらエンジンが壊れやしないだろうかと不安になる。こいつはやっぱり中高年が乗るバイクじゃないな。リッターバイク(1000ccクラスのバイク)だったらこの振動だと軽く200kmは越しているだろう。これで高速クルージングはちと厳しいな。
 
翌年の5月の連休、私はこんな事を感じながらバイクで一路徳島の薬王寺に向かいます。前に歩き遍路をしてからずっと歩いて回れたらいいなと考えていましたが冬も近づきまとまった休みも取れないし、ちょっとずつ車で行ける所に行ってみようと考えるようになり、晩秋から年末にかけて今治周辺、松山周辺、徳島の残りの札所を回ってしまいました。今治周辺は車を置いて出来るだけ歩くようにしました。松山の周辺は大宝寺や岩屋寺など山中の寺があり松山からのアクセスは大変なので車で回りました。雪が積もっている岩屋寺の行場にも登ってみました。
 
一度そうし始めると最初の何が何でも歩いて回ろうという決心はゆるんでしまいました。まあ出来る事からやればいいじゃないか、私は昔からいとも簡単にその種のこだわりを捨てます。実際の話、例えば室戸岬で区切り打ちを終えたとするとそこから何らかの交通手段で一旦帰り、次の機会に再び室戸岬まで行って歩き始めるということになります。これは大変なことです。先へ進むにつれて距離が遠くなり、また不便も増す、それにこだわっていると何時行けるかわからなくなりそうでした。徳島県はもう23番の薬王寺を残すのみになっていたのです。
 
バイクの機動性は素晴らしく四国遍路には最高です。フェリー代、ガソリン代が安い、交通停滞しても横をすり抜けて行ける、駐車場の心配は不要で山門の脇にでも停めておけるなどなど。それに難所と言われる焼山寺、横峰寺などへも苦もなく行ける、歩けば苦行の道が楽しいライディングに変わる、敵は雨だけという四国遍路においては魔法のような乗り物であります。
 
午後に家を出たのでその晩は徳島市内で一泊、翌朝55号線を南下、私は赤信号で止まる度に渋滞する車の横をすり抜けて先頭に出て青になるとダッシュをきかせて車を置き去りにするということを繰り返して薬王寺までもうすぐという所まで来ました。非力な250のバイクでも重量が軽いのでスタートダッシュにおいては車は問題外なのです。
信号が赤になったのでいつものように前に出ようかと思ったけどその時何故か躊躇して車の後ろについて行きました。信号が青に変わり走り始めると路肩にネズミ捕りのレーダーが見えその向こうに警官の姿が見えました。フーッ前に出なくて良かった!
スタートの時ダッシュすると70kmくらいは出てしまいます。もし前に出ていたら確実に引っかかっていたでしょう。制限速度40kmの国道ですからね。“これはお大師さんのお陰やな”と私は勝手に感心しました。しかし本気でこんな事を信じていたらお大師さんに「お前はアホか、自分のやっとる事を知れ」と叱られるでしょうね。
 
薬王寺は厄除けで有名、眼下に青い太平洋が見え南国に来たぞーという感じがする寺です。海亀で知られた日和佐の海岸もすぐ近くです。私はここで本尊の薬師如来様に心を込めて祈りました。バイクで来ると時間を気にすることなく十分に祈る事が出来るのです。歩いているとどうしても時間が気になり次の札所に早く着かねばと思ってしまい祈りがおろそかになる事がありますがバイクはそういう心配は無用というわけです。
 
薬王寺から室戸岬にある24番の最御崎寺までは83kmの道のり、歩く場合は途中に札所は無く2日間で歩くとしても一日40km以上歩かなくてはなりません。室戸岬まで左に太平洋、右は断崖が迫っているという景色が変わることなく延々と続きます。何と言っても太平等の青さが実に素晴らしく、適度にコーナーがありバイク乗りにとってはルンルン気分で走れるところです。ついスピードオーバーになりがちな気持ちを押さえて押さえてひたすら室戸岬を目指します。
 
右手の歩道を見ると連休なので歩き遍路が多く中にはかなりの年齢と思われる人もいます。皆ひたすら歩いていますがやはり苦しそうに見えます。土佐は修行の道場で各札所間の距離が長く歩き遍路にとっては苦行と言っていいでしょう。ご苦労様、といういたわりの気持ちでヘルメットの中でお経を口ずさみながらその横をバイクで駆け抜けます。昔の遍路は歩きながらご詠歌を唱えていたそうですがそれがご詠歌の始まりだそうです。バイクには金剛杖をつけているのでバイクが路面の凹凸を拾うたびチリンと鈴が鳴り、遍路に来ているのだぞ、いい気になって飛ばすなよと言っているかのようです。
 
 
 
 
更新日時:
2008/01/29

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Last updated: 2008/2/26