遍路の話

2    歩き遍路体験記 その1

雨の旅立ち、歩き遍路から始まる
 
四国を歩いて全部回るのは自分の現状からして不可能、そこでまずは歩き遍路を体験してみようと思い立ったのが2003年の秋でした。丁度年齢や仕事環境などが転換期にありここは今までと違う視点から自分の人生を見てみる必要があると思っていました。四国遍路はその意味で関心を持っていたのです。雨の中を朝4時過ぎに起きて5時半のフェリーに飛び乗り高松に渡りJRで一番札所、鳴門にある霊山寺を目指したのでした。もちろん一人です。歩き遍路の本を一通り読んで気分は完璧に歩き遍路のつもりでした。
 
しかし今回は歩くのは僅か2日半、というのも実際は退職でもしない限り40日以上の休みをとるのは簡単ではありません。今は無理をしてまでやり通す時ではないと思ったからでまずは四国遍路とはどいうものかその感触を味わってみようということでした。坂東という駅で電車を降りると一時上がっていた雨が降り出し吹き降りになってきました。いきなり遍路の衣装になるのは何となく抵抗があり私はウインドブレーカーに傘をさしリュックを背負い霊山寺に向けて歩き始めました。まもなく霊山寺が見えてきます。雨にもかかわらず大勢の遍路が来ています。阿波は発心の地、一番の霊山は出発点なのでさあ行くぞという新鮮なエネルギーに満ちています。ここから自分は生まれ変わるんだと気合を入れていくところです。
 
私は山門をくぐって雨の当たらないところでこっそりと遍路の衣装に着替えました。線香の煙の立ち込める本堂でロウソクと線香を立て、賽銭を入れ、持参してきた教本を見て般若心経を唱えます。たどたどしいにわか仕込みの心経を他の人の視線を気にしながら唱えました。慣れない事で全く足が地に付いていない感じがしました。ここの本尊は釈迦如来でこの寺の御詠歌があります。「霊山の釈迦の御前にめぐり来てよろずの罪も消え失せにけり」。ところがこの時はこのご詠歌の意味を感じてみる余裕などあるはずはありません。
 
隣の売店で安いほうの金剛杖(心経の書かれているものは高い)と納経帳と地図を買い300円也を払って納経帳に記帳をしてもらいます。「お気をつけてと」いう言葉をうけて私は「ありがとうございます」と意気揚揚と雨の中を霊山寺の山門を出て次の札所極楽寺に向かいました。雨脚が強まりウインドブレーカーをリュックから引っ張り出して着込み歩き出そうとした瞬間、あっ杖が無い!買ったばかりの杖を置き忘れてきていたのです。慌てて霊山に引き返すと買ったばかりの杖は売店の入り口の壁に立てかけられたままでした。やれやれ、靴を履こうと紐を結んでいる最中に杖の事を忘れてしまっていたのです。
 
ロスをすること数十分、この時は恐らく隣の大師堂にお参りするのも忘れていたと思います。四国は必ず本堂と大師堂があり両方お参りしなければならないのです。次の札所まではわずか1.2kmですが雨風はいよいよ激しくなり容赦なく横の国道を走る車の水しぶきが飛んできます。早速雨の洗礼か!今までならこんな風雨のなか私は車の中にいる人間でした。こんな所をリュックを背負い傘をさして車の水しぶきを受けながら歩くなど考えられない事だと思いながら黙々と歩き続けたのでした。
 
更新日時:
2008/02/14

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Last updated: 2008/2/26