横浪半島
翌朝目覚めてまだ朝食までに時間があるので桂浜を散歩することにする。ここは何回も来たことがあり珍しくはないがはるか沖を見渡して太平洋を感じ、坂本龍馬の銅像を見上げて土佐に来たなということを実感する。空気はじっとりしてもうひとつ爽やかではないが海辺は湿気があるのが当たり前、散歩する人もぱらぱら、朝食前の散歩は悪いものではない。ゆっくり出発してまずは雪渓寺、種間寺と参拝する。雪渓寺で納経所に行くと番の老人がいてカウンターの上に百円玉を一杯載せた皿を置いてある。百円硬貨を持っていない人はお札を出したら自分でおつりを取っていってくださいということである。ある遍路さんが「勝手におつりを取っていいんですか?」と尋ねると「ああ、そうして頂戴、きちんと払うたかどうかはお大師さんが見とるけんな」とその番の老人。このあたりは周囲は田畑が多くのどかな風景が広がる。35番の清滝寺はかなり山を登ったところにあり道が細く車で行くとすれ違えないので時間差通行にしてある。大きな薬師如来像が立っていてこの寺のシンボルになっている。参拝客はその胎内に入れるようになっている。
36番の青龍寺は横浪半島の付け根にあり本尊は波切不動明王でこれは弘法大師が唐に渡る際に暴風雨に遭い、あわや遭難という時に現われて嵐を鎮めてくれたという言い伝えが残っている。長めの階段が本堂まで続き左手には行場もありそれなりの雰囲気のある寺である。次の岩本寺までは約57kmほどの距離、横浪半島を走る横波黒潮ラインはバイクで走るには絶好のコース、左手に真っ青な太平洋を見ながら適度なコーナーが続く。この道路は海からはかなり高い位置にあり室戸の道路のように海のすぐそばを走っているわけではないが荒波に削られた崖と海とのコントラストが美しく三陸海岸に似ている。コーナーを攻める若者のバイクが行ったり来たりしているがブラインドコーナーが多くオーバースピードでコーナーに突っ込んで行ったりすれば崖を何十メートルも墜落することになるしセンターラインをはみ出ると対向車と正面衝突することになってしまう。しかしここは本当に気持ちのいい道で、思わず引き返してもう一度走りたいと思うほどだった。国道56号に合流して一路岩本寺を目指す。ゴールデンウィークで車が多いがやはり四国、また家族が好んで行くような観光地が無いため大したことはない。
後から来た品川ナンバーのBMWのオートバイが飛ばす飛ばす、追い越し禁止の車線で片っ端から車を追い越していく。危ないなあ、何であんなに飛ばすのかと思って見ていたら彼も四国88箇所を回っていたのである。その後何箇所かの寺で見かけたが彼は拝む事はせず唯、納経所で朱印をもらうだけに徹していた。果たして彼はその後無事に東京まで帰ったのだろうか?国道を渋滞に遭いながらも間もなく37番の岩本寺に到着した。私はそこで群馬県から来た初老の男性と会うが聞けば彼は何年か前一人で通しで歩いて四国を回ったとのこと、今回は奥さんを連れて車でお礼周りをしているという。彼の山好きはすさまじく膝などが故障した場合は山を歩いて治すのだそうで医者などにはかからないとの事、荒療治をモットーとする。前に四国を歩いたときは40日ほどで回った。山と違いアスファルトを歩くのは勝手が違いどうしても足に豆ができる。両足とも皮がむけてしまったが毎晩足を上げて風呂に入り、休むことなく歩き通したのだそうだ。横で奥さんはその話を聞きながらあきらめ顔であった。今さら呆れてはいられないのだろう。四国を回っていると色々な人との出会いがありそれが楽しみでもある。それぞれに四国遍路に対する自分の世界を表現しているのだろう。遍路にはこうあらねばならないというものは無い。自分が求めるものを追求すればいいのである。
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