〜契約とは〜

契約を 結ぶは易し 誰とでも
解約するは まことに難し
心の短歌


そもそも契約とはどういうものでしょうか。必ずしも契約書を交わしたものだけが契約になるというものではありません。日常のスーパーで野菜を買う、喫茶店でコーヒーを飲むなどの行為も契約行為になるのです。契約成立=契約書作成ではありません。これは学校では教えてくれません。日常生活の中で自然と感覚的に覚えていくものです。教育現場では学ぶことのない契約の知識ですが、日常生活を送るのに切っても切り離せない重要なことなのです。ある程度の知識を持っていなければ、何かあったときには泣き寝入りしかできなくなります。このページでは、一般的な売買契約を中心に見ていきます。

<登場人物>

軽 約太郎(けいやくたろう) 20歳の社会人1年目

戒 約子(かいやくこ) 24歳のOL

くまじいさん 近所の森の住人(一応人扱いということで…) 推定64歳

お師匠様 軽約太郎と戒約子の昔の恩師 58歳

<契約の成立>
 
約子さん、おはようございます。また月曜、今日から一週間仕事をしないといけないですね。

 約太郎君、おはよう。ほんと、長い一週間が始まったわね。でも、今週末には「さぬきうどん食べ歩きツアー」に行くから、それを楽しみにがんばるわ。

 「さぬきうどん食べ歩きツアー」いいですねぇ。僕も行きたいなぁ。

 あら、本当?ちょうど友達の一人の都合がつかなくて、チケットが一枚余ってたの。500円なんだけど、一緒に行かない?(チケットを見せながら)

 是非!じゃあ、そのチケット買うので、僕も一緒に連れて行ってください。今、お札しかないからお金は後でもいいですか?

 いいわよ。じゃあ、後でチケットと交換でね。

 さて、ここでおさらいぢゃ。今回、約太郎君と約子さんの間では契約書は書いていない。しかし、お互いの意思が合致しているので売買契約が成立するのぢゃ(民法555条)。これから分かるように契約成立=契約書ではないのがポイントぢゃ。ちなみに、今回の契約関係は以下のようになるぞ。

 約子さんに500円渡す義務(債務)、約子さんからチケットを受け取る権利(債権)

 約太郎君に500円受け取る権利(債権)、約太郎君にチケットを渡す義務(債務)

 また今回、約太郎君が「お金は後でいいですか?」と聞いたときに、約子さんは「チケットを渡すのはお金と交換で」と言ってチケットを渡さなかったぢゃろう。これは「同時履行の抗弁権」といって、約太郎君が500円支払わない限り、約子さんはチケットを渡さなくてもいいということが民法(533条)で認められているのぢゃ。


契約書はあくまでも契約内容を明確にする、証拠を残すというものであり、契約書作成=契約成立ではありません。ですから契約書がある場合、印を押していなくても契約は成立しているといえます。ただし、このHPで取り扱う悪徳商法(訪問販売、電話勧誘販売等)の契約では、業者が消費者に対して書面の交付を義務付けています(特定商取引法4条、5条)。書面が交付されていない場合は、何時でも解約ができます。



<承諾の期間を決めた申込みの契約>
 くまじいさん、最高級ハチミツ「女王蜂のナミダ」が手に入ったんだけど、1000円で買わない?

 何!「女王蜂のナミダ」とな!!そいつはわしの大好物じゃないか。欲しいぞ!ただ、今月の小遣いがあまりなくてのぉ。5日間、返事を待ってくれんか?

 いいよ。じゃあ、5日以内に返事をしてね。

〜3日後〜
 くまじいさん、「女王蜂のナミダ」の件なんだけど、ぷーさんに話したら3000円で買ってくれるって言うんだ。悪いけど、この話、なかったことにしてくれない?

 何!!そんな勝手なこと通るわけないだろ。最初に5日待つと言ったではないか。もう少しでばあさんを説得できそうなところなんだ。絶対に認めん。お師匠様に話を聞いてもらおう。


 結果から言うと、約太郎(申込人)からの取り消しはできない。くまじいさんが同意すれば問題ないが、そうでない場合はその期間(今回は5日間)はその申込みを取り消すことは不可能ぢゃ(民法521条1項)。今回はくまじいさんの勝ちぢゃ!ちなみに、5日過ぎてもくまじいさんが返事をしなければ、約太郎の申込みは効力が無くなるので、好きなように処分していいぞ(民法521条2項)。


<承諾の通知が遅れて到着したとき>
(上記の場合で、最初の話から7日後に買うと言った場合)
 約太郎、やっと金を用意できた。2日ほど遅れたが「女王蜂のナミダ」を売ってくれんか?(1000円を握り締めて)

 くまじいさん、遅いよ。2日も過ぎてるじゃないか。でもいいよ。結局ぷーさんもお金が無かったみたいだし。じゃあ確かに1000円もらうね。これが「女王蜂のナミダ」だよ。めったに手に入らないから、大切に食べてよ。

 おお、ありがとう。早速いただくとしようか。


 お師匠様、今回はくまじいさんが無事に「女王蜂のナミダ」を手に入れることができてよかったけど、契約関係は2日も遅れて購入しているのに、どうなっているの?

 うむ、今回の契約関係は以下のようになっているのぢゃ。

@約太郎からくまじいさんへの申込み(期間:5日間) → 5日間経過後、くまじいさんから返事無し
  この時点で、申込み無かった状態になる

A最初の申込みから7日後(期間を2日過ぎている)くまじいさんから購入の申込み → 約太郎が応諾
  @とは別の新しい売買契約として成立(民法523条)



〜その他の場合〜

<承諾の期間を決めてない遠隔地への申込みの契約>
例えば、Aが県外在住のCに対して「大根を100円で買いませんか?」と言った場合はどうでしょう。
この場合、Aの申込みはCのもとへ通知が届いてから有効となります。Aは承諾の通知を受け取るのに相当な期間のうちは申込みを取り消すことは出来ません(民法524条)。例えばAは4月1日に葉書をポストに入れました。その葉書がCに届いたのは4月3日です。この場合は、4月3日から申込みが始まります。そしてAはCから返事が届くであろう期間は、その申し出を取り消すことはできません。


<遠隔地の契約の成立時期>
では上記の場合、県外在住のCとはどの時点で契約が成立するのでしょうか。
県外在住のCとは、Cが「大根を買う」という通知を発信したときにAとCの売買契約が成立します。Aに通知が到着したときではありません(民法526条1項)。



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