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小麦粉のタンパクの量と質

麺のタンパク量はどのくらいがいいのか、質はどのようなものがいいのかをうどんと素麺について考えてみたいと思う。

讃岐うどんは7.5%以上で作りなさい。そうでなければ讃岐うどんの基準には入りません。というものだったような気がします。
素麺についてはなんの基準もありませんね。
ただ、細もの程タンパク量は多くなっています。それはタンパク=グルテン(湿麩)で、その弾性による食感も大事な要因となるのです。
太もののうどんはタンパク量が少なくても、全体としてみると多いのとデンプンによる食感の影響が大となるからである。
この量についてはかなりいろんなところで書かれもし、言われてもいるようですが、質に関しては「良質なタンパク」という表現でしか知っていない。それがどういうものかはうどんの職人は「生地がだれる」というような表現をします。我々手延べ素麺作りの職人にとっては言ってみれば他業種のこと故本質的なことまで分かりかねます。もちろんこれは私たちがいう塩が少なかったり、水が多すぎたり、思ったより温度が高くなったりしたときに使う「だれる、デが来すぎる」という表現とは違うものであることは分かります。
では、どういうものか私が経験したり勉強したことから考えていこうと思います。


素麺、うどんは「麺用中力粉」と相場が決まっていて、もちろん中には強力粉を使うところもあるのだが、それはあまりにも細く仕上げるためだけでなく作業性によるところがあるのではないかと思うんだが、その食感をよくするために一人一人が人生を懸けて(は少しオーバーな表現だが、)昔から繰り返してきたものです。
私を例にするのははなはだ申し訳ないが、私が経験してきたこと、勉強してきたこと、造ってきたもの、そのすべては私のものであって決して他の誰にもその本質は受け継がれない。それぞれがまた別に作り上げていくものです。例えHPなどで作り方とらえ方など基本的なことを残そうとしてもすべてが書き記されたわけではないし、知っているわけでもない。


「タンパクの量と質」
についてはいろいろ読み、聞きもし、言いもしたが、実際には私には分からなかった。
最近少し分かってきたのが外麦(ASW)と内麦を比べてみたときの違いである。
ここから考えてみたいと思う。

ここで、素麺に使っている小麦粉のタンパク量は、私は9.2%の小麦粉を2種類。9%の小麦粉を1種類。8%程度の小麦粉を1種類。この中で乾麺用が1種類、うどん用が3種類である。素麺を作るのにもうどん用を使っている。もっともこれを決めているのは製粉会社で、これまでの経験則に依るものでわけているに過ぎないのである。つまり、これまで生産者から聞いた「切れない、作業性のよい」小麦粉を細い素麺(乾麺用)とし、「切れる心配のない、喉ゴシの良い」うどんにはタンパクの少ないデンプン粘度の高い小麦粉と分けてきたのである。
私は勉強する中で「そんなはずはない。麩質のいい、デンプン粘度の高い小麦粉で素麺を作れば必ず美味しい素麺ができるはずだ。」と思ってきました。もちろん簡単ではない。作業性の問題、製造直後の食感と厄後の食感の違いのこと、茹で伸びのことも考えなければいけない、小麦粉の価格も無視はできなかった。
作業性と価格については取り敢えず無視をすることにした。そうしてやっていくとタンパクの量とデンプン粘度については大方このようなものというのが私の中にできてきた。
デンプン粘度を突き詰めて高いものをというと、どうしてもASWではなく「内麦=国産小麦」となる。これもいろいろとためしている。基本的にはよく似ているのだが品種と各産地で微細なところでのこだわりがあるので興味深い。

ここでタンパク質の「質」に行き当たったのです。
「量」はASWと同じようにあるのだが、全くつながりが悪く作業性がとことん悪いのです。何に起因しているのか?
タンパク=グルテニン、グリアジン(他3種類)なんですが、グルテニンは繊維質、グリアジンは粒状で、グルテンマトリックスといわれるものを形成するのはグルテニンなんです。この性質がASWと国産小麦とでは全く違っていることに気付かされたんです。

グルテニンが引っ付きあう構造は「sh基」といわれる、いわば枝が出ていて、それが絡み合って引っ付きあってグルテン繊維となります。これが「SS結合といいます。」
分かりやすく言えば、髪をパーマするでしょ。あれです。熱を掛けてSS結合を解き、カールでSS結合をずらし、冷風を掛けて固める。そうして髪がくるんくるんになる。
ASWはこのsh基がたくさんあるようなのです。反対に国産小麦にはこれが少ない。依って結びつきが少なく「だれる」という現象が起きる。また「さくい」ということもあって切れやすくもある。
ここで、製麺性という観点から見れば、塩と加水がこれまでと変わってくる。(タンパク質の話なのでここではこれ以上触れないでおきますが非常に重要なポイントとなります。)
このグルテンの質がASWと国産小麦とでは全く違い(今回はこの2種の小麦を比べたが、麺には主としてこの2種の小麦が使われている。若干強力など混ぜているようなものもあるが、ここでは私が使っている小麦粉に限定してそこから考えられることを書いている。)

質については、この品種間の差と、製粉の段階での差がある。
製粉の段階での差というのは1番粉から末粉まであるが後になるほど熱変性などで壊れたタンパクができるので、量はあってもつながらない質の悪いタンパクとなる。

私は、これで、大まかに麺の食感を良くする製麺というものに「自分の方向性は正しい」と気が付いたと思う。
素麺についてはある程度タンパクの「量」もいる。「質」も大事な要素である。デンプン粘度をおろそかにしてはいけない。
これまでうどんと素麺は同じ「麺用中力小麦粉」といいながら全く違う小麦粉をそれぞれが使ってきたが、決してそうではないことを認識したと思う。
これは、素麺もうどんの考え方と基本的に全く同じであると言える。
ここからが麺造りの始まりとなる。