(衣装、かぁ・・・)
次のセレクションまで、あと数日。
前回セレクションのことを思い出して、彩音はひとつ、大きく息を吐いた。
「どうしたのだ、朝比奈彩音。暗いぞ」
きらきらりん☆と音のしそうな光を纏って現れたのは、妖精・リリ。
彩音をこのコンクールに巻きこんだ張本人である。
突然の来訪にももう慣れた。が。
「リリ・・・何度も言うようだけど、『朝比奈彩音』じゃなくて『ヒナ』でいいって・・・」
慣れないのは、フルネームでの呼び捨て。
まぁ、妖精から見れば人間はみな同じで、名前など個体識別のための符号に過ぎないのかもしれないが。
なんか、寂しい。
「あ・・・っと、すまないのだヒナ。以後気をつけるのだ〜」
そんな心の内を知ってか知らずか、リリは焦ったように彩音の周囲を高速で舞う。
別にいーけど。と、彩音は二度目のため息をついた。
「・・・本当に元気ないな。音楽のことなら我輩、相談にのるぞ?」
にかっ、ときれいな歯を見せるリリに、彩音は困ったように眉根を寄せる。
「音楽ってゆーかね、・・・・・・セレクションのことなんだけど」
「ふんふん」
他の参加者と妖精たちがどの程度関わっているのかは知らないが、
セレクションについてリリに相談するのは、なんだかズルいような気がしてならない。
だが、当のリリが聞いてくれるなら。と、彩音は話してみることにした。
「みんなキレイな衣装着てたなーって。
月森くんなんか『正装で演奏するのが観客に対する礼儀だと思う』ってビシッとキメてたし、
冬海ちゃんもドレス似合っててかわいかったし、
・・・私ももーちょっと服のこと考えた方がいいのかなぁ。と思って」
前回のセレクションでは、彩音以外は皆正装だった。
その演奏もさることながら、襟を正してスポットライトを浴びる参加者たちは「音楽家」の風格をも纏っていて。
改めて、自分の存在が異質である、という現実に打ちのめされる。
異質は異質なのだから仕方ない、と、開き直ることもできるのだけど。
「なるほどなー」
「音楽やってる人ならこの先何度もあーゆー服着るだろーけど、
このコンクールだけのためにわざわざそろえるのって、もったいなくない?
貸し衣装にしたって、結構高いし・・・」
お小遣いじゃ、とてもじゃないけど無理だよ。とまたため息。
「あ・でも、こんなこと言われても困るよね。ごめんね、グチっちゃって」
「いや、わかった。我輩がなんとかしてやろうっ」
空中で器用にふんぞり返るリリに、彩音は大きく目を見開いた。
「ホントっ?」
「もちろんだ。
お前、今までたくさんの人に曲を聴かせて、音楽を広めてくれただろう? そのお礼なのだ!」
や、そんな、礼を言われるようなことは。と困惑する彩音。
確かに、曲をある程度通しで弾けるようになったら、できるだけ人のいるところで練習するようにはしている。
けれどもそれは、あがり症ゆえ、舞台で演奏するまでに人目になれる必要があったし、
なにより、人前で演奏するよう勧めてくれた人がいたからだ。
別にリリたちファータが目指すところのためにそうしたわけではない。
「気にすることはないのだ!
どういうつもりであったにしろ、お前のしたことは結果的に、我輩たちの目的にかなったのだ。
それだけで我輩はうれしいのだ♪」
「・・・・・・いいの?」
認められれば、素直に喜べる。
それでも遠慮がちにたずねた彩音に、リリは得意げに杖を振る。
「我輩に二言はないのだ。いくぞー? えーいっ!」
きららららん☆
光と共に突如空中に現れたそれは、引力にしたがって落下する。
彩音の上へと。
ドサドサササッ!
「ぁぶっ!!」
「だ、大丈夫かヒナ?」
「・・・・・・だいぢょぶぢゃなーい。も〜〜〜・・・」
よろよろと身を起こし、拾い上げてみてその数に驚く。
ドレス3着、髪飾り3種にアクセサリが3つ。
「まさかこれ・・・全部つけろなんて言わない、よね?」
「む、 気に入ったか。そうしたければしてくれて構わないぞ? 我輩のキモチなのだ♪」
「できるかっ」
びす。と、とりあえずツッコミ。
いくら厚意とはいえ、全部とゆーわけにはいかない。
使う使わない以前に、持ち帰るのが大変だ。
「くー・・・・・・な、なら、どれがいいのだ」
先ほどのツッコミがよほど堪えたのか、へろへろと空中を漂いながらリリが問う。
「んー・・・・・・」
赤いロングドレスは大人っぽくエレガンス。緑のドレスは異国風味。青なら丈が短くキュートに決まるだろう。
「じゃあ、これ」
しばらくドレスとにらめっこをして、彩音は青のファンタジックを選んだ。
ロングドレスは、背の低い自分には似合わない。
「髪飾りもあるぞ? ほれほれ、これなんかどうだ?」
と、リリが編みこみリボンの上にとまった。
「うーん・・・」
他は、金の巻きリボンと
「ん、これにする」
白い花のバレッタ。
リボンはかわいいけど、時間がかかって面倒くさい。
どうせなら、髪をひとつにまとめてパチンと留められる方が楽でいい。
・・・不器用、というなかれ。それは本人が一番よくわかっている。
「それから、耳飾りも要るだろう?」
「えー? もぉいいよ〜〜」
「そんなこと言わずに見てみるのだ! ほら、これはどうだ? ファータ印だぞ〜」
「却下」
ひと言のもとに切り捨てられて、しゅー・・・と下降するリリ。
リリが勧めたのはスゥイング・ファータ。小さなファータが耳元で揺れて、かわいらしい。
あとは、ト音記号と星をかたどったナイン・スターに、赤い石が葡萄の房のように連なるヴィノ・イヤーカフ。
「青いドレスに白い髪飾りなら、赤がほしいかな。うん、決まりっ」
言って、彩音はヴィノ・イヤーカフを手にとった。
「少しは我輩の好みも聞いてほしいのだ〜〜」
「はいはい、また今度聞かせてねー」
駄々っ子のようにじたばたするリリを軽くなだめながら、彩音は思う。
リリがここまでしてくれるのも、柚木先輩のアドバイスがあったからだ。
今度先輩に会ったら、お礼言わなくちゃ。と。
でもとりあえず、今日のところは。
「ありがとね、リリ!」
小さな妖精にとびきりの笑顔を向けて、彩音はほくほくと教室に帰っていった。
Fin.