そうじゃない こんなんじゃない
もっと身をひきちぎられるような
痛くどうしようもないところへ
ぼくは行きたかったんだ

そうして我が身を映す水鏡
ぼくはきっと不幸が好きで
どうしようもなく縋りついて
その水に溺れてみたかったんだ

涙を真珠だと弄んでみたり
溜息と同じくらいの風で
いともたやすく倒れて
泣いて苦しんでみたかった
ただそれだけのために
ひとを傷つけたこともあった

とべない鳥をあわれんでばかり
傷ついた羽根をほらとひろげて
得意がっていたのかもしれない
不確かで心細くなるような記憶だけど
それがとても
美しいものだと思っていたから

ながいこと生きていると
そんな姿にはっとする時が来るんだね

そうじゃない こんなんじゃない
ぼくの羽根は傷ついてなどいない

どんなに情けなく生きていたって
どんなに過ちを繰り返していたって

ぼくはこんなにも空に愛されている





ぼく
詩織の部屋へ
2004/06/05