見知らぬひとから
 本が送られてきた
 知り合いのそのまた知り合い
 暫くテーブルに置いて
 気づいたらひらこうと思う

 日常の秒刻みの隙間で
 そのひとの本が忘れられる
 どんなにぶあつく豊富な物語でも
 どんなに薄く読みやすい物語でも
 昨日食べた夕食のメニューが言えない私は
 あした読む本の存在を忘れる
 
 そうかといって
 古本屋に売りにゆくこともできない
 そのひとのサインが
 くっきりと存在を誇示する

 ごめんなさい
 少しカンネンして
 本を広げる
 あらすじのさなかに
 整理していない戸棚の情景が
 ありありと浮かぶ
 不揃いの箸
 むすめの部屋に丸められたくつした
 返信していない葉書
 本の一行が悔いのように長く伸びる
 伏せなければならない 
 色合いのある時間
 その本は 
 けっきょくのところ
 乗り継ぎ駅のように
 ふっと座り込んだ時間に
 ふたたび開かれる
 重い表紙をそっと閉じて









 
奈都子
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