優しい画集をながめている
文字に疲れたこころは
架空の恋愛ストーリーをはじきとばす

ひあたりの悪い部屋でなく
ひあたりの良い部屋に寝そべり
優しい画集をながめている
宗徒では無いけれど
おだやかなマリアの表情を眺めている
母であることは
愛すべき道程を歩く事だが
母であることは
愛されることの叶わない仕事だ

喧騒のホームみたいだった
朝のひとときは
レモンをひとしずく浴びた様に沁みる

優しい画集を眺めている
誰かに愛されることばかり
ひとはなぜ望んでしまうのか
マリアの表情に
答えをさがすわけではないけれど
マリアはしっとりと愁いを含んで
わたしの小さな嫉妬を遠ざける

母 妻 わたし
三つの名詞のほかに
わたしには何があるのだろう

優しい画集を傍らに置く
かわいた砂浜のこころが
すべて潤うことは稀だが
満ちてゆく静かさをだきしめて
わたしはそっと眼を閉じて見る






静かな朝
星粒
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