前回よりも更に説明書を読んだ。 知らなかった事がいっぱい載っていた。 穴蔵登山隊の二年目、今度こそは大丈夫・・・ と言いたいのだが、あまり自信がない。 そこで、今回はある目的を設定した。 |
隊員の全員生還(出来れば登頂)!! |
昨年と同じくマヌーツェ峰、南西斜面からのスタートだ(同じ六月で)。 ルートは昨年の記録が残っている。 一気に山頂付近までルートは決定した。 そして安全な場所へのテント設置、危険なルートにはルート工作、とても作業がスムーズである。 その間、遭難者ナシ・落石被害ナシ・滑落者若干名、でも被害ナシ。 今年の穴蔵登山隊はちょっと違うぞ! 何といっても経験者がいるからな(五名だけど)。 ただ、危険回避にちょっと慎重になりすぎていたらしく、かなりの時間を費やしていた。 距離そのものは昨年よりも進展がない、というよりも昨年よりも短い。 これはマズい。 慌てて歩を進めようとする。 残り数百米を前進する関東部隊。 のハズが、なんだか少し進んだだけで激しい疲労に襲われていた。 かなり地形が悪いのだろう。 それに、昨年はここでの事故から雪崩式に部隊壊滅の危機に陥ってしまったのだ。 やはり慎重にルート工作を行いながら進もう。 工作に必要な資材を運搬中、今年から新しく入隊したにゃお隊員が高度障害になってしまった。 いきなり六千米級の高所は無理があったようだ。 ベースキャンプへ引き返すべきなのだが、目的の最終キャンプはすぐ目の前だ。 強行せよ!! はっ!! 今のは私じゃないぞ。 私の中の違う私が命令したのだ。 だが、もう遅い。 そのまま夜を迎えてしまい、そのキャンプで夜を明かさなければならなくなった。 翌朝早くに運搬部隊を下山させたが、その間にもにゃお隊員の容態はどんどん悪化してくる。 高度障害とはここまで症状が早く悪化するとは思いもよらなかった。 途中で休養させるか? いや、事は急を要するだろう。 彼女にはなんとかがんばってほしい。 『にゃお隊員の意識がなくなっています。 かなり危険な状態です』 ベースキャンプは目の前だ。 あと少しだけがんばってくれ・・・ 隊員の下山をこれほど待ち遠しく思ったのは初めてかもしれない。 無事に戻ってきたにゃお隊員は即病院行きとなってしまった。 すまなかった、にゃお隊員。 私の判断ミスだ。 君の為にも必ず登頂を果たしてみせるぞ。 私の固い決心をあざ笑うかのようにDEVUN隊員から無線が入ってきた。 『もう一週間分しか 食料が残っていません』 今年、ルート探索に時間をあまり費やす必要がないだろうと判断し、食料の予備をあまり用意していなかった。 おまけに今年は遭難者もなく(いい事なのだが)、食料の減るペースも速い。 関東部隊に何とか前進出来ないかと連絡してみるが、彼らは岩肌にしがみ付いたまま微動だにしない。 見ると、風速は四十米を記録している。 『これ以上はどうしても進めません』 ・・・仕方ない。 DEVUN隊長の無線を聞きながら、私は呟いていた。 仮に登頂出来たとしても、わずか数日で撤収出来るとも思えない。 私は可能な限りの資材を持って下山するよう命令した。 残りの部隊にも残った資材の運搬、テントの撤去を命令した。 残り日数がかなり厳しくなってきた。 私は部隊員数を増やし、一度に大量の資材を運搬しようとしたが、それが裏目に出てしまった。 DEVUN隊長から無線が入ってきた。 『ルートを見失いました』 あと数百米でベースキャンプだという位置だ。 彼らさえ戻ってくれば、登頂は失敗だが全員無事生還という目的は達成されたというのに。 大部隊だけに遭難者の数は全隊員の半数近くになる。 この部隊が全滅すれば、 被害甚大!! 体調不良でベースキャンプに残っていたあ〜る隊員を隊長に捜索部隊を結成、 『今日は吹雪で作業が出来ません』 強行せよ!! 『食料がなくなりました』 強行せよ!! 『今日は吹雪で・・・』 強行せぇっちゅうねん!! あ〜る隊長以下三名の捜索部隊、まる三日かかっても遭難部隊発見出来ず。 既に食料が底を付いてから二日が過ぎていた。 月も変わり、今は七月である。 それを待っていたかのような連日の猛吹雪で視界はほとんどゼロ状態だった。 『もう食料がありません。 登頂はあきらめましょう』 登頂は一週間前から あきらめとるわぃ!! ここまで来るともはや意地である。 必ず彼らと生還してやる。 食料が尽きて四日目、たまたま体調を崩して難を逃れていたイワ王隊員が復帰してきた。 経験はあ〜る隊員の方が上だが、能力は彼の方が上だ。 即隊長交代させる。 その刹那、 『ルートに復帰しました』 でかした、DEVUN隊長。 出来ればもっと早く戻ってきてほしかった。 この五日間、私がどんなに胃を痛めていた事か・・・ 彼らの帰還を待ち、我がハラペコ穴蔵登山隊は撤収した。 穴蔵登山隊の二年目、登頂失敗、入院者一名だが 全員生還(ゴミもなし)!! 更に、若い隊員ばかりを募集していたので引退者もナシ。 現在、我が穴蔵登山隊でツートップを努めているのはDK隊員とDEVUN隊員。 次いでイワ王隊員(二世)、栃心隊員となっている。 彼らには、他の隊員がもうちょっと経験を積むまでは引退しないでほしいです。 |