カリブ海の沖には、数千万ドルもの金塊を積んだ船が沈んでいると言われている。 船の名は
『サン・フェルナンド号』 、一五九七年、サンタ・ルチア島沖で台風に遭い沈んだとされている。 一五九七年三月、ドン・エスコバルはアズテック王国から六〜七〇〇〇万ドル相当の金塊を略奪し、フィアンセと共にスペインへと向かっていた。 だが、出航して間もなく、彼らを乗せたサン・フェルナンド号は時化に遭い、サンタ・ルチア島沖で座礁、沈没してしまった。 エスコバルのフィアンセと乗組員は無事に島の浜辺へと流れ着いたのだが、彼らを待っていたのは原住民の襲撃だった。 その結果、エスコバルのフィアンセを残し、全員が殺されてしまった。 彼女が助かったのには理由がある。 この島には、美しい女王が海の彼方からやって来るという古くから言い伝えられていた予言があったからだ。 原住民は、彼女こそ伝説の女王だと信じたのだ。 実際、沈んだ船の事など彼らの記憶には残らなかったのだが、この伝説の女王の話はその後、二〇〇年以上もの間、島民達によって語り継がれていた。 一八二四年、ニューヨークのココア業者であったジェイムズ・フィリップスがサンタ・ルチア島を訪れた時に偶然この伝説の女王の話を聞き、島民を使ってこの沈没船を引き上げようとした。 だが、彼らを乗せた船は沈没船を前に突然転覆した。 島民達が無事に浜辺まで泳ぎ着けたというのに、泳ぎに自信があったというフィリップだけが海に引きずり込まれるように沈んでいき、二度と浮かんでは来なかった。 島民は、彼は女王の亡霊に引きずり込まれたのだと語り合った。 十五年後、ジャクソンという名のアメリカ人がこの海へ宝探しに潜って行き、そのまま帰っては来なかった。 一九〇四年、ヘンリー・グリフィス卿がサン・フェルナンド号の引き上げを計画した。 彼はオキオとマタカズという二人の優秀な日本人の潜水夫を連れて来た。 初日、彼ら二人は海へと潜って行き、約三〇分後には海の底に眠るサン・フェルナンド号を発見した。 彼らはそのまま船内へと入って行き、金塊の入った箱を見つけ出したのだが、マタカズがその箱を開けた時、彼はオキオの目の前で突然苦しみだした。 と、同時に彼らの周囲の海が大きな渦を巻き始めた。 渦はドンドン強くなり、オキオの命まで危うくなってきた。 マタカズを助ける事を諦めたオキオは必死でその渦から逃れた。 ふと、彼の視線が沈没船の舳先に止まった。 そこにはエスコバルのフィアンセを模った彫像があったのだ。 オキオは全身の血の気が引き、今にも気を失いそうになった。 舳先の彫像の目が、青とも緑とも、なんとも形容のつかない光を放っていたのだ。 まるでこちらを睨みつけるかのように。 オキオは無我夢中で命綱を引いた。 船上に引き上げられたオキオは、しばらく茫然自失状態で、何を聞かれても答えられなかった。 マタカズの方は、命綱が切れ、二度と戻っては来なかった。 サンタ・ルチア島の沖には、今でもサン・フェルナンド号が沈んでいると言われている。 |