新春ドラマスペシャル 秋刀魚の味![]() 《放送》2003年1月3日 フジテレビ 《出演》宇津井健 財前直見 佐野史郎 玉木宏 《作品解説》 この作品は1962年に公開された小津安二郎監督の「秋刀魚の味」のリメイクで、2003年1月3日にフジテレビ系で放送された新春特別ドラマ。小津安二郎(1903年〜1963年)生誕100周年記念ドラマである。 《ストーリー》 妻を亡くした平山周平(宇津井健)は、長女路子(財前直見)と次男和夫(玉木宏)と暮らす。 親友の河合(米倉斉加年)から路子の縁談を持ちかけられるが、家事一切を路子に頼っていることもあり、なかなか娘の結婚話に積極的にはなれない。 路子自身も、現在の家族の状況を考えると結婚に対して二の足を踏んでしまう。 そんなある日、周平は、同窓会に招待した中学時代の恩師佐久間(植木等)を自宅に送り、妻に先立たれた父の面倒をみるうちに婚期を逃した佐久間の娘(泉ピン子)に会う。 佐久間の娘に感じる女としての侘しさ、その娘を見つめる恩師の父としての切なさに、娘と自分の将来を重ねる周平。 娘の将来を案じた周平は、漸く路子に結婚を勧める決心をする。 弟の和夫から路子が長男(佐野史郎)の同僚三浦(仲村トオル)に想いを寄せていることを知り、長男に二人の仲介を頼むが、既に三浦には結婚を決めた女性がいた。 父と兄からその事実を聞かされた路子は二人の前では気丈に振舞うが、一人部屋に戻り涙する。 そして、三浦への気持ちに終止符を打ち、父の友人の薦める縁談を進めてもらう決心をする。 娘を送り出した夜、周平は亡き妻の面影を感じさせるマダムがいるバーに立ち寄る。 酔って家に帰り、次男和夫が眠る部屋で、若き日の思い出の歌を一人寂しく口ずさむ。 《玉木宏主演シーン》 玉木宏が演じるのは、長女路子の弟で大学生の和夫。 撮影当時22歳だった玉木君は役柄とほぼ同年齢。 リメイクにあたって時代設定は昭和30年代から現代に置き換えられているけど、意図的に衣装や舞台装置は昭和テイストを残しているので、役者さん達にも昭和テイストが漂う。 そんな中、出演者の中で一番若い昭和55年生まれの玉木君は昭和濃度が一番薄い。 前髪を短く切り揃え、襟足は長めにした髪型の和夫は、鴨居を潜るように頭をひょいと下げ、茶の間に入ってくる。昭和テイストのセーターを着ていながら、その長身としなやかでスリムな肢体が昭和臭を消し去り、現代感を醸しだす。 長男の土産のドーナツをほおばる和夫。視線は宙を泳ぎ、“無の境地”に達したかのような表情で黙々とドーナツを味わっている。時々、不思議そうな眼差しで手にしたドーナツを見やる。なんとも不思議なドーナツの食べ方をする人であるが、2007年にこのドラマをDVDで始めて見たにもかかわらず、既視感のあるシーンだ。そう、2005年から放映が始まったミスドのCMで披露されたドーナツを食べる表情と全く同じなのだ。このシーンが縁でミスドのCMの引き合いがきたのだろうか? 因みに小津監督のオリジナル版では、和夫が食べていたのは、「不二家」のドーナツであった。 父に姉に想い人がいるのか問われた和夫は、姉のことはさしおき、自分の恋バナを始めてしまう。 「バイト先の出版社の子なんだ。 小ちゃいんだ。 太ってんだ。 可愛いんだ。」 天井を見上げ、幸せそうに語る和夫の表情がなんとも可愛い。 オリジナル版では、和夫が想いを寄せる相手は「毎日乗っているバスの車掌さん」だった。 私も黒いガマ口型の“車掌さんバック”を下げたバスの車掌さんの記憶がうっすらと残っているが、昭和40年代以降、バスのワンマン化で車掌さんは消えていった。 姉の結婚式の日。 和夫は電話でタクシーを呼び出す。 「うん、えっ、なに? だからさ2台はもう来てるんだよ。 そのほかにだよ。うん。 わかったね。 小型でいいんだ。 もう一台。 うん。 そうだ。 すぐだ。 頼んだよ。」 オリジナル版と平成版で台詞はほぼ同じなのだが、オルジナル版の和夫の台詞は随分とぞんざいに聞こえる。 “東京弁”自体がぞんざいに聞こえるのかも知れないが、いささか横柄にも聞こえる台詞だ。 平成版の和夫からは、ぞんざいさと横柄さが薄らいでいる、というより、あまり感じられないのは、玉木君自身のスマートさ、発音の抑揚のソフトさによるものかもしれない。 この部分は、オリジナル版と聞き比べてみると大変面白いと思う。 《オリジナル版と平成版》 「秋刀魚の味 2003年版」を見たのがきっかけで、オリジナル版も見てみた。 オリジナル版は、昭和の郷愁にどっぷりつかれる。 ちょっとした小道具からも、当時の記憶が甦ってくる。 平山が訪ねた親友河合の家で出てきた酒は、当時高級ウィスキーの代名詞だった「ジョニ黒」だった。 円高や酒税の改定で、洋酒はかつてほど高価でなくなったが、昭和のあの時代、庶民の家のサイドボードには、ジョニ黒やナポレオンが “見せ酒”として飾られていたものだった。 そんな遠い記憶が甦った。 勿論、この作品は娘を嫁にやる父親の寂寥感、恩師佐久間の「結局人生は一人ぼっちですわ・・・。」という台詞に集約される孤独感がテーマなのだろうが、一部ではあるけど昭和という時代を生きた私は、どっぷりとノスタルジーに浸ることに専念してしまう。 2003年版は、時代設定は現代になっているが、人の意識や価値観、風俗は昭和のままなので、却って日本人の意識の変化が浮き彫りになって面白い。 ドラマの冒頭で平山周平が女性社員に年齢や、結婚の予定を尋ねているが、今、これをやったら「セクハラ」と言われかねない。「個人情報」という言葉に過敏になって、迂闊に個人的な事を聞けないような現代の風潮も寂しいが、かと言って、何の疑問も感じず、こういった質問ができた時代が100%よかったと思うわけでもない。 愛情や思いやりという情緒は昭和も現代も普遍だが、時代と共に変わってきた意識は逆戻りできないと感じた。 「秋刀魚の味」は、2003年版とオリジナル版、それぞれを味わってみると面白いと思う。 |